玄関のタイルの床を掃く寮監にあいさつをして、俺は木造の階段を2階へ上がる。階段を上り切って3つ目の部屋に『植村飛鳥』と書かれた扉があった。2度ノックをして「は〜い。」と言う返事を待って扉を開けた。いつ見ても異常な光景に、俺は別の空間に迷い込んだような感覚になる。しかも今日は客までいる。
 飛鳥の部屋に入り、まず目に付くのは、透明のプラスチックケースに入った串刺しでタレの付いたイカや、何か得体の知れない板状のフライ。机の上には、スーパーボールやビー玉、ベーゴマの入った底の浅い仕切りの付いた箱。机の横には一枚一枚袋に入ったトレーディングカードの束。天井からは10連に繋がりぶら下がっているガムなど、明らかにこの部屋は『駄菓子屋』そのものだった。その中央で駒の芯を磨いでいるこの部屋の主、植村飛鳥のまわりには2人の客がいる。どう見ても小学2.3年の子供。



 俺は、ショーケースのような冷蔵庫からアイスを一つ取り出し、口に運んだ。
「お前、金払えよ。」
 飛鳥は、眉をしかめ俺にそう言った。
「ハウマッチ?飛鳥。」
 俺の質問に、
「30円。」
 鼻で笑う金額だった。俺は100円玉を飛鳥に渡し、
「あと70円分、なんか選んでくれ。」
 と言うと、両手に溢れるほどの駄菓子を渡された。
「なんか用のあって、来たっちゃろ?」
 飛鳥は『方言』と言う独特の喋り方をする。九州地方の言葉らしい。
「飛鳥・・・。変な事件あるんだけど、やりたい?」
「へんな事件って、どんなの?」
 俺の言葉に始めに反応したのは、まわりのガキ達だった。そのガキ達を部屋から追い出し、真弓から聞いた話を飛鳥に話す。
「へぇぇぇ。良かたい。面白かごたっやん。」
 ・・・たぶん、「OK」と言う意味なのだろう。
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