太郎はそのまま、左手を前に突き出した。それと同時に太郎の能力が炸裂する。
 太郎の左腕は、肩から手首の間が異常な伸びを見せた。太郎がいる場所から飛鳥達がいる場所までの距離約5m。その距離分、太郎の腕は伸びた。すなわち、太郎の腕は、5m先の『手だけの怪物』に一直線に向かっていると言う事。普通の人間では、考えられない体の構造だが、コイツはそれが出来る。なぜなら、太郎は『DMAN』。
 前回話したように、DNA手術によって特別な能力を身につけた超人類。意識するだけで手足の伸縮が自由自在になる能力を太郎は、DNA手術によって得ている。この他にももうひとつ手術を受けているらしく、のちに明らかにされるだろう。
 そんな、とんでもない能力によって腕を伸ばし、『手だけの怪物』に太郎の左手は近付いて行き、そしてまた、想像も付かない事が起こった。
 手だけの怪物のすぐ前に現れた太郎の左手に、吸い寄せられるように『手』は、太郎の左手をつかんだ。
「成功です。」
 太郎は、『手だけの怪物』をつかみ返し固定させ、そのまま腕を元の長さに戻す。なんだか訳が分からないが、とにかく『手だけの怪物』を確保し、任務完了と言う事になるのだろう。



「さっき話してた飛鳥の推理がヒントになって、この作戦を思いついたんです。」
 と、太郎は話した。飛鳥の推理?筆談でど〜のこ〜のと言うヤツ?とにかく、その作戦とやらを聞いてみる。
「飛鳥。手だけで言いたい事を表現するのって、どんなやり方がある?」
 太郎は飛鳥に問い掛ける。
「声を出す顔の無かっちゃけん。やっば筆談とか手話とか・・・。」
「じゃあ剣。手だけでコミュニケーションをとるとしたら、どんなやり方がある?」
 太郎は次に剣に質問した。
「手だけでコミュニケーションとるんだったら、やっばり握手とか・・・あ!!」
 つまり太郎の作戦とは、相手が挨拶代わりに手を出せば、必然的に自分も「ヨロシク」って言って手を出す。太郎は、この作戦を『コミュニケーション大作戦』と名付けた。
 そして俺達は、この『手だけの怪物』をコンビニの袋に押し込んで、真弓に薬物検査をした派出所へ持って行く事にしたが、さすがに『手』だけあって、袋を内側から摘ままれ、破かれ、そのまま逃げだそうとしたが、とっさに飛鳥が、持っていたビー玉を投げつけて『手だけの怪物』の小指をへし折ったらさすがにおとなしくなって、そいつを、公園のごみ箱に落ちていたアルミの弁当箱に押し込み、派出所に持って行った。
 派出所では、2人の警官が俺達の話を冷めた目をして聞いていたが、弁当箱の中でごそごそ動いている『手だけの怪物』を見せると、いきなりギョッっとした顔になって、それからはちゃんと話を聞いてくれた。
 そして何日かたって、真弓の家に警察の偉い人が謝りに来たらしい。
 今回の事件は、これにて無事解決。特殊部隊は、ご町内の平和と安全のために活躍するぜ。
『手だけの怪物』 終
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