FILE.03 『走れメロス』のように
 この日、俺達はざくろの家に集っていた。・・・って言うのも、学校でざくろが、葵みのりちゃんって言う伝説のAVアイドルのビデオを年齢を偽ってレンタルしたと言うから、そのビデオの鑑賞会を放課後、ざくろん家でやろうと飛鳥が言い出したんだ。・・・ゴメン。実は俺が言った。
 とにかく人生経験の勉強をする事は、この年齢の俺達には、やっぱ大切なんで、ある意味『勉強会』と言う事になる。…ま、そんな事は、今回どうだっていい、事件はこの後すぐに起こった。
 ざくろの玄関の前に、俺とざくろと飛鳥、それに太郎と雅がいた。勉強熱心な奴等だと思ってくれ。いつもと変わらない顔触れだけど、何かがちょっと違う。・・・それは太郎の顔。その日、この時間、太郎の顔は、真っ白で滝のような汗が流れていた。それに俺達が気付いた時、玄関の前で太郎はバタリとたおれる。



AV観れるから興奮してとか、そんな事ではなさそうだ。かなりヤバイ状態らしい。すぐにざくろは太郎を抱き起こして、
「おい!どうした?太郎!!しっかりしろ!!」
 と、声をかけた。俺達も太郎の顔を覗き込む。
「く・・・薬が、き・・・切れたみたいです。」
 虫の息で、太郎はざくろにつぶやく。
「薬?!太郎!薬が無くなったのか?」
 薬…。太郎は常日頃、薬を持ち歩いていた。その薬とは『Dの安定剤』。前にも話に出たと思うが、太郎はDMANと呼ばれる新人類。自分のDNAに特別な手術を施し、超人的な能力を身につけた人間なんだ。太郎の手足が自由に伸び縮みするのはDMANの能力のひとつと言う訳。しかし普通の人間の体に、このDMANになる手術をすると、やっぱ体は自然な状態では居られなくなるため拒否反応を起こす。下手すれば死んじゃう事もあるらしい・・・。だからこの『Dの安定剤』と言う薬を1日3回朝、昼、晩と服用しなければいけないんだ・・・一生。もうひとつ付け加えると、1つの能力に対して、薬は1乗。つまり太郎は2つの能力を持っているから、1回に2乗飲まなければいけない。
「剣!!お前『DMAN』だろ?太郎に薬を分けてやれよ。」
 ざくろが俺の方を向いて聞いてきた。
「ち・・・ちょっと待てよ。俺は『DJr』だから、薬は必要ないんだ。」
 そう、俺は『DJr』。DMANの親から産まれた二世で、特別な能力は持っているけど、この能力は俺が産まれた時からある能力だから、拒否反応は無く、薬を飲む事もない。だから『Dの安定剤』は、持っていないんだ。
 太郎の見るからにヤバイ状態に、俺達はオロオロしていた。
「あ・・・」
 俺は、ある事を思いついた。この声を聞き、もう一度みんなは俺の方を向く。
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