6人・・・7人・・・。
 商店街内を自転車を押しながら買い物をするおばちゃんは必然と面積が広くなる。いろんな状況、いろんな行動を瞬時に判断して避けて行かなければならない。・・・今日の晩飯、絶対美味いぞ。・・・しまった。今一瞬、関係無い事を考えた自分に後悔したのは、そのコンマ数秒後の事。



 目の前に、何人目になるかもうすっかり忘れてしまったけど、おばちゃんが歩いていた。俺は、避ける事が完全に不可能な、おばちゃんのテリトリー内にいる。もう、避けれない。次の瞬間、弾丸と化した俺のからだは、おばちゃんの豊満な3段に分かれたボディーに、ぐっぽりはまり込んだ。そして、そのまま空中でおばちゃんと2人、俺達は優雅なダンスを踊り、俺は地面に叩き付けられた。おばちゃんの方はと言うと、長い年月をかけて築き上げたほぼ球体に近いボディーで、「ポヨン」ってな具合に地面で弾んだだけで大きなダメージは、うけてないらしい。この衝突の瞬間を目撃したマダム達は、あまりに素早い出来事に、おばちゃんがひとりで転んだようにしか見えてない。とにかくチャンスだ。俺はビリビリする体で再度爆走モードに入り、その場から逃げ去った。

俺ん家に辿り着いたのは、その人身事故から20秒後だった。ゴム毬怪人との戦いで負傷した腰を押さえ、俺は家の玄関の扉を開けた。
「かあちゃ〜ん。」
 狭い家中に聞こえるくらいの声で、俺のかあちゃん剣舞子(32歳)を呼ぶ。
 いつもだったら、「どうしたの?息も切らさずに。」と、返事が返ってくるはず。どんなに長く走り続けたとしても、呼吸が乱れる事の無い俺の体質に皮肉っぽい返事をするんだ。自分も同じくせに・・・。
 しかし、何度か舞子を呼ぶが、返事が無い。俺は舞子の本拠地となっている台所を覗いてみた。
「かあ・・・ちゃん?」
 やっぱり返事が無いし、見た感じいない。「どこ行ってんだよ。大事な時にぃぃ。」と思って何気なくテーブルを見てみると、
『マー君へ。モダン通り商店街に夕飯のお買い物に行ってきます。ママより』
 と言う書き置きがあった。
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