収録も中盤に差し掛かり、そろそろ我々の番がまわってくる頃になった。
 我々武闘家が出る前に会場では、この武術とはどう言う物か?と言うVTRが流れ、そして実際スタジオでの技の披露となる。今は、新潟に総本山を持つ『射砂爆風流』が技を披露していて、我々の『鉄刃流』その次となっている。
 『射砂爆風流』が、披露を終え、いよいよ我々の番になった。VTRでは、200年の伝統を持つ『牙京鉄刃流』の紹介が行われている。我々が扱う『鉄刃刀』は、長さ150cm、幅30cmの刀剣。最近ではセラミック刀も使われるようになり、10kgと軽めにはなったものの、鉄を打ち鍛えた真剣は重さ30kgを越える。今日は、先祖代々伝わる真剣『岩豪丸』を持ち、某はこの収録に参加していた。
「さて、それでは実際にこの『牙京鉄刃流』をご覧になってもらいましょう。どうぞ〜!!」
 渡辺徹さんの声が聞こえ、我々が待機しているスタジオの裏では、スタッフの方が、
「みなさんどうぞ。」
 と、小声で指示を出し、我々はスタジオ内に入って行った。扉が開き、無数のライトが我々を照らし出すと観客のすべてが拍手喝采で出迎えてくれた。そして某が渡辺さんの隣りに並ぶと、
「『牙京鉄刃流』の12代目の後継者。牙京雅さんです。今日はどうぞよろしくお願いします。」
 と紹介され、某も、
「よろしくお願いいたします。」
 と、一礼をする。その後、ゲストの方々が『鉄刃刀』を手にとり、
「こ・・・これは、めちゃくちゃ重いですね〜。こんな物持ち上げる事も出来ないですし、振り回すなんてもっての外っすよ。」
 などと、二言三言会話を交わしている最中に、スタッフの方々は技を披露するための準備に追われていた。
 作業も終了し、幅50cm×50cm。長さ2m程のコンクリートの柱が8本、不規則に並べられる。
「それでは、準備も整いましたので、この『牙京鉄刃流』を披露してもらいましょう。」
 と、渡辺さんは言い、某はひとり、中央に進み出た。



 会場の照明が全て消え、スポットライトが某と8本のコンクリートの柱を浮かび上がらせる。シンと静まり返った会場内で、某は左手に持った鞘から鉄刃刀を右手1本で静かに抜く。会場から小さなざわめきが起こる。ゲストが両手でかろうじて持てるくらいの鉄刃刀を片手で構える某の姿に観客の全ての目線が注がれた。
「は!!」
 某は気合いを入れ駆け出す。20kgの鉄の固まりを木の葉でも操るように風に沿わせ、コンクリートの柱を撫でた。柱は斜めに音も無く切断され、そのままずれ落ち、床にゴドッと転がる。1本、2本・・・。10秒後には、柱の上部すべてが床に転がった。会場は割れんばかりの歓声と拍手が埋め尽くした。某は鞘に鉄刃刀を納め、振り向き、そして一礼をした。それから弟子達が次々と技を披露し、我々の出番は終わりを迎える。
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