この少女は、僕の家の隣りにある『剛磨崎禅蔵保育園』に通う、さくら組の小野田亜樹ちゃん。
 僕は一年の内、何度か保育園の行事の手伝いをしいて、なんとなく園児達と仲良くなり顔見知りになっている。その園児の中のひとり亜樹ちゃんとは、保育園行事のフリーマーケットで、一緒に店番をしたことがある。・・・そういった関係。
「・・・で、どうしたの?亜樹ちゃん。お兄ちゃん達に話してみて?」
 僕は、膝にしがみつき涙とか鼻水をこすり付けている亜樹ちゃんに問い掛けた。
「あのね。あのね。亜樹のミルクが、いなくなったの〜。」
 彼女は、鼻声混じりでそう答える。
「ミルク〜?なんだそりゃ?」
 立ち上がったざくろは、そう言いながら眉を寄せ、亜樹ちゃんを見下げた。亜樹ちゃんは、ちょこちょことざくろの方に歩いて行き、ざくろのスネを蹴る。そして僕の膝に戻って来た。完全にざくろは、この子に嫌われてるらしい・・・。
「『ミルク』と言うのは、亜樹ちゃんが飼っている『犬』のことですよ。亜樹ちゃんから聞いた事があります。」
 僕が、ざくろに説明すると、
「な〜んだ、犬コロ一匹逃げ出したくらいで、ギャーギャー泣いてたのか。コイツ。」
 と言い、案の定、亜樹ちゃんは、ざくろのスネに蹴りを入れた。
「分かった分かった亜樹ちゃん。僕達も一緒にミルクを捜してあげるからね。」
 ざくろは「俺も一緒に捜すのかよ。」という顔をしたが、首を突っ込んだんだから仕方が無い。その表情を察してか、亜樹ちゃんはざくろに、
「じゃくろ・・・。肩車。」
 と、言った。



 『愛犬ミルク失踪事件』操作開始。
 亜樹ちゃんを肩車したざくろと僕は、付近を捜す事にした。しかし、情報が無さ過ぎる。『犬』と言うだけで、種類とか、どんな犬なのか?は、僕も見た事がないしほとんどはっきりしない。保育園児に詳しい情報を聞くということ事態、期待出来ないし、答えてくれても、僕達の方が理解出来ない。とにかく、『ミルク』と言う『犬』なのだ。
 僕達は、ミルクと言う名前を呼び続けながら、町中を走り回った。なんだかんだ言いながら、ざくろも亜樹ちゃんを肩に乗せ、一生懸命ミルクを捜している。良い奴なんだけど、子供には嫌われている・・・。
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