FILE.08 ケルベロスなのかよ?!
 僕の家の近くにある『剛磨崎禅蔵保育園』に通う小野田亜樹ちゃんは、その日、公園で愛犬の『ミルク』を逃がしてしまった。その場に居合わせたざくろと僕は、亜樹ちゃんの犬を捜してあげる事にした。いろいろな場所を捜しては見たものの、『ミルク』は見つからない。そうこうしていると陽も暮れてきたので、僕達は取り敢えず亜樹ちゃんを家まで送って行く事にした。その途中、亜樹ちゃんの家の近くの空き地で亜樹ちゃんは『ミルク』を発見する。
 しかし、その空き地にいた犬は、犬は犬でも『6年型軍用犬ワープドッグ』。
 軍用に開発された頭が二つあって、瞬間移動の出来る狂暴なとんでない犬だったんだ。
「ミルクゥゥゥゥ。お家に帰ろ〜。」
 亜樹ちゃんは、ワープドックに向かってそう叫んだ。・・・でも何かが違う。
「あれが、ミルクか・・・。たしかにミルクみたいに真っ白だなぁ。」
 亜樹ちゃんを肩車したざくろは、額から一筋の汗を添わせ呟く。
 『ワープドッグ』は、ドーベルマンと言う種類の犬の改良犬。基本的には焦茶色の体を持っている。それをざくろは「真っ白」と言った。僕はもう一度、ワープドックを見る。すると、ワープドックの前足の下、フワフワの白い毛玉のような固まりがうずくまっている。その固まりが亜樹ちゃんの言葉にピクッと反応して、顔らしき部分を持ち上げた。その白い毛玉は、マルチーズという種類の犬、しかも小犬。僕はやっと状況を把握した。
 ワープドックの足の下で、プルプル震えているのが、亜樹ちゃんの愛犬『ミルク』だったんだ。



「じゃくろ!!降ろしぇ。降ろしぇ。」
 亜樹ちゃんは、ミルクの所に早く行きたいらしくボコボコざくろの頭を連打する。
「痛てて・・・。降ろせるわけねぇだろ。じっとしてろ!!」
 ざくろは、必死に亜樹ちゃんの両足を握り締め、攻撃を我慢していた。
「亜樹ちゃん。僕達がミルクを助けてくるから、ここで、じっとしてて。ね?」
 僕が亜樹ちゃんをなだめていると、ざくろがキッと僕の方を向き、
「先手必勝だ。太郎、コイツをたのむ。」
 と、亜樹ちゃんを僕に放り投げ、すぐに駆け出し、有刺鉄線の柵を飛び越えた。そして、そのままワープドッグの方向に突進する。
「ざくろ!!『6年型軍用犬ワープドッグ』の知識は?」
「なんとなくな。」
 そう言うとざくろは、ワープドッグの1m手前でグッと踏み込んだ。左足を軸にして、右足を振り上げる。ざくろの本気の蹴りは、現役プロレスラーの内臓を完全に破裂させる。しかも、効き足の右だとしたら肋骨の粉化もプラスされる。そんな蹴りを今、目の前のケルベロスの動体にねじ込もうとしているんだ。ざくろは勝利を確信し、僕も同じ考えだった。ワープドッグと遣り合った事のない者の愚かな考えだけど・・・。
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