ざくろの蹴りがワープドックの動体に触れる瞬間、ワープドックは微妙に震え、そして消えた。
 ざくろの行き場を失った足は、宙をブンッと音を立てて空中に放り出される。蹴りの勢いを止めてくれる物体が無くなった事で自分でスピードを止めなければならなくなり、凄い力がいる。
「チッ・・・。」
 ざくろは舌打ちをして、足を戻した。その時、ざくろの頭の真上に再びワープドッグが出現し、そのまま頭の上に落ちてくる。・・・「落ちてくる。」というか、アタックをかまして来た。ざくろは地面に片足を付いたが、すぐに体勢を戻して凄い勢いで僕達の方に走ってきた。ワープドッグから3m程離れた時点で、ざくろは走る勢いを弱め、普通に僕達の所へ走ってくる。
 なんとなくでも、『6年型軍用犬ワープドッグ』の知識はあったようだ。
 つまり、ワープドッグの瞬間移動は、半径2mが限度。最大でも半径3m程で、ざくろも「ここまで来れば、ちょっとは安心。」とでも、思ったのだろう。ワープドックは出現して2秒待たないと次の瞬間移動が出来ず、体を小刻みに震わせる事で時空を歪めワープする。それにかかる時間は0.5秒。何度か瞬間移動を繰り返せば10mを15秒程で
移動出来るが、『深追い』しないのがこの犬の特徴だ。
 ざくろは、僕達の所へ戻ってきた。
「ほら。お前の犬コロ取り替えしてきてやったから、早く帰りな。」
 ざくろが差し出した右手には、亜樹ちゃんのミルクがしっかりと握られていた。
「ミルクゥゥ。あいやと〜じゃくろ。」
 亜樹ちゃんは、ざくろからミルクを受け取り、しっかりと抱きしめた。そして、亜樹ちゃんが家に入って行くのを確認した後、
「話には聞いていたが、あの軍用犬すげーな。」
 と、遠くからじっとこちらを伺っているワープドッグを見つめ、ざくろが呟いた。
「勝ち目は?」
「無いとヤバイっしょ。」
 僕も空き地に入り、攻撃の準備を始めた。
「太郎・・・。気合入れろよ。」
 そう言うと、ざくろはもう一度、ワープドッグに突進した。さっきと同じようにワープドッグの動体目掛け蹴りを入れる。だけど、明らかに弱い蹴り。ワープドッグは、体を小刻みに震わせ、瞬間移動に入った。それを期待していたかのように、ざくろは体制を整え、宙を目で追う。次の瞬間、ギャワン!!と言う声がざくろの右側から聞こえ、ざくろの右足はワープドッグの脇腹をえぐっていた。

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