FILE.01 弟子入り
 横浜市立黒金高校1年C組。ここが俺、元内ざくろの通う高校の俺の居場所だ。
 その日俺は、ママが作ったアメリカンクラブサンドのランチを済ませ、5現目の英語の授業は夢の中にいた。みんなは、授業中に居眠りをするのを悪い事だと思うかもしれないけど、外国旅行もした事がなさそうな英語教師は、
『これは机ですか?それとも鉛筆ですか?』
『いいえ。これは椅子です。』
 と言う、訳の分からないクレージーな日本人少年・マサオと、アメリカ人少女・メアリーの会話を、誇らしげに読み上げ、授業を進めている。アメリカ生まれの俺が夢の中に逃げ込むのも理解してもらいたい。変な英語で寝付きは悪いが、それでも窓越しに降り注ぐ冬の太陽は、暖かさを俺に与えてくれている。そんな昼下がり・・・。
 授業も中盤に差し掛かり、クレージーなマサオのクレージー度も極限に達しているようだった。
『これは大きな犬ですか?それとも小さな猫ですか?』
 この英文を、英語教師は黒板に書き殴り、生徒はそれを書き移す。俺は授業の邪魔にならないように静かに眠っていた。しかし、誰にも迷惑をかけていない俺の肩を揺らし、起こそうとする奴がいる。そいつのおかげで、俺はウィノナ・ライダーとのキスシーンを中断させられ、現実の世界に連れ戻された。
「ざくろ・・・呼んでる・・・。」
 俺を起こして、小声でこんな事を言った奴は、クラス委員の今井エリカ。明るくて活発で元気なのは認めるが、クラスの女達ほとんどと男達の半分くらいに慕われているって言うのが分からない。しかも、中学で3年間コイツと同じクラスで、高校に入ってまで同じクラスってのが納得いかない。美人ならまだしも・・・。
 俺を起こした今井は、「呼んでる」って言っていた。俺は英語教師に目をやり、そしてクラスメート全員を見回す。だけど、俺を呼んでそうな奴はいないし、俺を見てる奴も今井以外にはいない。今井も寝ぼけてるのか?
「ざくろ・・・呼んでるって・・・。」
 今井は俺に、またそんな事を言った。
「誰がだよ。」
 俺は眉を寄せ、今井に問い掛ける。
「知らない・・・けど、呼んでる。」
 誰かわからない奴が、俺の事をどこかで呼んでるらしい。俺は耳を澄ませてみた。すると、かすかだけど誰かが俺の名前を呼んでる。
「じゃくろぉぉぉぉぉぉぉぉ」
 って・・・。

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