FILE.02 強くなるためには・・・
 この自称最強の俺の一番弟子は保育園児。俺にとっては、死ぬまで付きまとう汚点だろう。はぁ〜。ため息もんだぜ。
 初めはガキの小さい脳みそで考えた安易な考えだと思っていたけど、何か違う。グランド5周くらいさせれば、もう2度と『弟子入り』何て言葉を俺には言わないだろうと思い、すぐに実行させた。
「学校が終わって、俺が出てくるまでココをずっと走っててみな。そしたら、弟子にしてやんよ。」
 そう言って、俺達は教室に戻った。
「ざくろ・・・あんな事言って大丈夫なんですか?」
 太郎が、グランドをひょひょこ走りはじめる亜樹を振り向きながら問い掛ける。
「・・・知らねぇよ。社会の厳しさってのを教えてやった方が良いんだよ。」
「知らないのは、ざくろの方ですよ。」
 太郎はニヤッと笑いながら、意味ありげにそう言った。
 教室に戻ると英語の授業は終了していて、休憩時間になっていた。俺が席に付くと、「待ってました!」と言う顔で、今井が近付いてきて、
「ざくろ〜。誰?誰?かなり幼い声してたけど、彼女?」
 ニヤニヤしながら、俺の顔を覗き込む、さっきの太郎の気持ちがチョット分かった。
 6現目の数学が終了し、放課後になった。俺はあの事をすっかり忘れて、「放課後何をしようか」と、考えながら昇降口まで降りる。すると下駄箱の所には太郎と剣がいた。なんか2人で外を見ているようだ。
「なんだ?お前等、どうした?」
 そう言って、2人の所へ寄って行くと、太郎が微笑みながら振り向き、
「ざくろ〜。だから言ったでしょ?」
 という。何言っているか訳も分からず、俺は外を覗き込む、すると、鼻水と汗で、も〜ぐちゃぐちゃになりながらフラフラ走り続ける亜樹の姿があった。50分の授業+休憩時間を入れても約1時間。保育園児は高校生が走る400mトラックを走り続けていたんだ。
「な・・・なんだアイツ・・・。」
「亜樹ちゃんは、ガンバリ屋さんなんですよ。」
 唖然としている俺に、太郎はそう言ったが、いくらなんでも度が過ぎる。とんでもない奴に見込まれたもんだ。俺達3人は、くらんくらん走る亜樹の前に立ちはだかり、首をカクンカクンしながらうつろな目で俺を見る亜樹に
「ご苦労・・・。合格だ。」
 と言った。
「じゃくろ・・・。」
 いつもの事ながら、俺の名前を間違えて呟き、亜樹は倒れ込んだ。

 あれから1週間が経つ。始めの内は、くっしんとかジャンプとかさせて、飽きるのを待っていたが、1週間前の事を考えると、子供のくせに『子供だまし』は通用しない。仕方なく、3日目から、突きと蹴りの基本を教えた。そして4日が過ぎ、亜樹は今でもバカみたいに突きと蹴りをやっている。

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