「あ!! 雅く〜ん!!」
 一番奥のブースから身を乗り出し、俺達に手を振る人物がいる。まごうかたなき広末響子ちゃん!現在放送中フジテレビ月9のトレンディードラマ『戦火の中の惨劇』の第六話、地雷によって片足を吹っ飛ばされた彼氏役の木村角蔵(キムカク)との再開に大きく手を振り駆け寄ってくるあのシーンと完璧一緒。
 俺は、くぅぅって感じになって身を乗り出すと、いきなりデスクの下の方からヌ〜っとモヤシみたいなおっさんが目の前に現れた。
「はじめまして。広末のマネージャーで、林と言います。よろしくお願いします。」
 そのモヤシみたいなおっさんは『はやし』と名乗った。響子ちゃんのマネージャーだってさ。そして、俺達全員の手に名刺を配り終えると、「どうぞこちらへ・・・。」と、ちっちゃな会議室みたいな所へ案内された。
 3人掛けのソファーに、太郎とざくろ、そして飛鳥が座り、俺と雅はその後ろに立つ。俺と雅は3人より背が高いから、こんな状況になったらいつもこんな感じだ。
 俺達5人とモヤシが対面して座り、まもなく響子ちゃんが、会議室に入ってきた。
「改めましてこんにちは。広末響子です。」
 俺が舌出して犬みたいに「ヘ〜ヘ〜」言っているのを尻目に、他の4人は会釈や『さっ』と手を上げたりクールに決めてやがる。いつもはそんなんじゃないのにさ。
「お話のほうは、牙京様の方から聞かれたと思います。どうぞ当日はよろしくお願いいたします。」
 と、モヤシは切り出した。
「話?こいつは無口な奴で、俺等は詳しい話は聞かされていない。」
 間髪入れずに、ざくろが親指で雅を指差し答えを返した。・・・たしかに、雅は俺達に「ボディーガードをやってほしい。」としか、言っていない。
「・・・そうでしたか、大変失礼いたしました。」
 モヤシは深々と頭を下げた。さすがマネージャー、凄く腰が低い。そして詳しい話を話しはじめる。
「今年、広末と俳優の小林香さんの共演で、映画『機密』が公開されたのはご存知ですよね?その映画がこの度、『日本アカデミー賞』に選ばれまして、広末はこの作品で『主演女優賞』の候補に選ばれました。・・・ここだけの話ですが、『候補』と言っても決定で、広末が大賞になるのは確実なんですが、その事をよく思わない他のノミネート女優のファン達が、一週間ほど前からこのようなFAXを事務所の方へ送り付けてくるようになったんです。」
 そう言うとモヤシは、目の前のテーブルにFAXの紙をドサっと置いた。そのFAXには、殴り書きで『賞を辞退しろ!!』『死ね!!』『会場に来れば殺す』『高知に帰れ!!』と書いてある。
「こんな事があって広末もビビっちゃいまして、「会場には行かない。賞は辞退します。」と言い出す始末。・・・そこで、先日素晴らしい技を披露してくださった牙京様他、皆様方のお力を御借りして、『ボディガード』という形で当日、広末の護衛をして頂きたいのです。」
「・・・つまり、『バカなヲタク共から響子ちゃんを守れ!!』って言う事っすね。」
 俺が返事をすると、うつむいて暗くなってた響子ちゃんが俺の顔を見てくれた。か・・・可愛い。そして、他のみんなも話を聞いて納得したみたいで、改めて依頼を受ける事になった。

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