FILE.06 念力集中
 某はその日、暇を持て余し、学校の近くにある本屋へと向かった。今日は某の愛読誌である情報誌『Fine』の発売日でもある。
 学校の近くにある『矢口書店』は国道16号線に面した、12畳ほどの小さな本屋で、某の母が幼少の頃にはすでにあったと聞く。しかしながらこの矢口書店は、その狭い店内に似合わず、2mを越える某でさえ手が届かぬ高さにまで書籍が積み上げられ、歴史書、学書、洋書、教科書、児童書など、手に入らない書物は無いとさえ聞く。この事は、噂としてこの町に流れている話だが、店内に額に入れられ並べられている歴代の内閣総理大臣や各界の著名人の店主に宛てたサイン色紙達が、この小さな本屋が何か異様な、とてつもない存在感のある店にしているようだった。
 某は書店に着き、店の前の棚に並べられている本の前に立った。『Fine』の今月号を手に取り、パラパラとページをめくった後、その本を脇に挟み確保し、そして今週号の『少年チャンピオン』に手を伸ばし、立ち読みを始めた。
 どのくらい時間が経っただろう。某は、何か気配を感じ振りかえる。すると、遠くの方から飛鳥が某の方へ走ってきていた。
 …というより、某に目もくれず走り抜けようとしている。



「飛鳥!!」
 某は、飛鳥に声をかけた。
「おぉ。雅やん!!」
 飛鳥は、やっと某の存在に気が付いたらしく立ち止まり、あたふたと話し始めた。
「今、剣から連絡があって、太郎がヤバかげな!!」
「やばい? どういう事だ?」
 某は、飛鳥に問い掛けると、
「念力集中〜♪ぴ〜きぴき、どっかぁぁぁぁぁぁぁん。」
 飛鳥は大きく頭上で手を広げて見せた。これは本当にヤバイ。
 太郎がDNA手術を受け、特別な能力を持った『DMAN』であるという事は、読者の方達はお分かりの事だと思う。1つ目は、手足を伸縮自在に出来る能力。2つ目は、顔を変化させ百面相が出来るという能力。そして、3つ目の能力と言うのが、この我々が1番「ヤバイ」と思う能力である。この能力は、前2つのDNA手術の末、副作用として偶
然備わった能力で、現在の医療技術や手術を行った医者でさえ治す事が出来ず、太郎や我々も極力この能力を始動させないように、日頃から心がけていた。
「どこだ?場所は?」
「3丁目の川原げなよ。」
某と飛鳥は川原へと向かった。
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