FILE.07 ざくろの姉上
「太郎がキレた!!」
 仲間から報告を受けた某達は、ただちに現場へと向かい太郎の状態を確認する。ざくろの話では、「爆発まで、あと20分…。」
 …そう、太郎が切れると、2種類のDMAN能力の副作用、『人体爆破』が発生する。その人体爆破が起こると半径100m程の民家に莫大な被害を及ぼす。こんな民家が密集している場所で、太郎を爆発させてはいけない。某達は、歩いて1時間程の山にある採石場へと太郎を運ぶ事にした。急げばもっと早く着くはずなのだが…。
 某は、55kgの太郎を背中に背負い、採石場を目指した。赤く腫れ上がった太郎の体は、60℃を越えているらしく確かに熱い。しかしここで泣き言を言っている暇も無く、某と太郎の間に、ざくろ、剣、飛鳥の学ランを敷き、我々5人は、山へと続く道を走りつづけていた。途中、我々と一緒に走っている剣が、
「俺だったら、2分もありゃぁ採石場に着くのにな〜。まったくよ〜。」
 と、眉を寄せて肩を落とす。…確かに、剣の『瞬足』を持ってすれば、太郎をもっと早く運ぶ事が出来るが、剣の欠点は『極度の暑がり』。真冬でも部屋の窓を開け放ち、布団に包まって眠っている剣にとって、今の状態の太郎の1m近くにも近付く事が出来ない。事実、5人の中で一番大汗かいているのは、太郎から一番離れた剣だった。
 どのくらい走っただろうか…。ふいにざくろが立ち止まった。
「ざくろ!なんばしよっとか!時間無かっぞ!」
 飛鳥がざくろを怒鳴りつけ、ざくろに駆け寄る。しかしざくろは、そんな飛鳥に目もくれず道路の後方を見つめていた。その道路の後方からは一台の軽自動車が、我々の方に向かって来ている。
 三菱自動車の『トミカ・ダンガン・ハイパーX』。1900年代後半、作業ミスにより、数多くの不良車を出荷してしまい、自動車産業の一戦から遠のいた『三菱自動車』だったが、2000年代に入り、おもちゃ会社『トミー』と合併『夢を与える未来の車作り』をコンセプトに開発を再開し、2003年、未来型無公害太陽エネルギー車『トミカ・ナチュラル・ランナー』を発表。その後も、安全性、無公害を念頭に起き、次々と新型車を世に送り出し、今では1.2位を争う自動車会社として華麗なる業績を残している。
 その『ナチュラル・ランナー』の3代目にあたる、ロケットエンジンを標準装備した『ダンガン・ハイパーX』を、ざくろはジッと見ているのだ。車はビッビーっとクラクションを鳴らし、我々の横で減速した。
「ね…ねえちゃん!!」



「ざくろ〜。セクシーな格好して、みんなでなにやってんの?」
 この車の持ち主は、ざくろの姉上、『元内ぼたん』さんだった。
 ざくろの姉上『元内ぼたん』さんは、25歳にして、『ニューヨークタイムス』日本支部編集長を勤めているキャリアウーマン。ざくろが10歳の頃、ご両親と共に一時帰国するが、再度渡米。高校、大学と実年齢よりも若く優秀な成績で卒業し、『ニューヨークタイムス』に20歳で入社する。そして去年、日本支部編集長として再び帰国したのだ。
 そのぼたんさんが、我々の前にタイミング良く現れた。
「ねえちゃん。太郎がヤバいんだ!!採石場まで運んで行ってくれねぇか?」
「あたし、バカ弟にかまってる暇ないんだけど…。」
 ぼたんさんは、気だるそうにそう言ったが、我々のただならぬ状態を感じ、
「軽自動車は4人定員って決まってるの。ミヤちゃん、たろー君を車に乗せて!マー君は走れるよね?…じゃあ飛鳥チャン。」
 ぼたんさんの指示で、某と太郎、そして飛鳥がぼたんさんの車に乗り込んだ。
「え…俺は?」
 ざくろが眉を寄せて、ぼたんさんに話しかける。
「アンタは、走れ。」
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