僕達は、チケット売り場の小さなボックスにいる女の人の前に行き、そしてぼたんさんは、
「『ニューヨークタイムス』日本支社の元内と申します。園長にアポイトメント取っているのですが…。」
 と、話しかけた。すると受付の女の人は、どこかへ電話をし、程なく奥の大きな建物から、背広を着た男の人が現れた。
「『ニューヨークタイムス』の元内編集局長様でございますね。私し、支配人の磯田と申します。園長から話は聞いています。しかし、現在、園長は警察の方へ出かけていまして、もうそろそろ帰る頃だとは思うのですが…。」
 異常に腰の低いその支配人さんは、ぼたんさんにそう言った。
「ん〜。困ったわね〜。」
 さすが、アメリカ仕込みのぼたんさんは、自分の考えをはっきりと言う。それを聞いた支配人の磯田さんは、また、ペコペコ頭を下げ、
「…では、園長が戻られる間、園内をご覧になられては如何でしょうか?」
「タダで?連れもいるんだけど…。」
「もちろん、料金は頂きませんし、お連れ様もご一緒に。」
 普通にしていても、取材で園内に入れると思うけど、ぼたんさんは、バッチリ契約をかわす。なんか凄いね。

 ぼたんさんと僕、そして、ズーラシアに来ていた2組の家族と2組のカップル、全部で14人が、1つのパーティーになった。
 僕達14人は、ポップ調で『グーラシア!』と書かれた大きな扉の前にたった。この扉の向こうに『グーラシア』があるんだ。なんかどきどきする。すると、扉の上にあるスピーカーから声が聞こえてくる。
「ようこそ『グーラシア』へ。これからオマエ達を、魅惑の館へとご案内しよう。フハハ〜。」
 スピーカーから聞こえてきた声は、しゃがれてておどろおどしく、何か『お化け屋敷』にでも入るような雰囲気。しかも、声が終わると、ゆっくりとギギギギギ〜って音を立てながら、扉が開いていった。
 扉の中は広く暗い洋館のような部屋になっていて、壁には誰だか分からない大きな油絵の肖像画が数枚飾ってあり、壁際には古めかしい家具が並んで、中央の古い丸テーブルの上に置かれたローソク立てのローソクの火がゆらゆらと辺りを照らしている。これって『動物園』なの?って感じ。
 僕達全員が、「ええ?」って不思議な顔をしていると、どこからともなくさっきのしゃがれ声が聞こえてきた。
「この屋敷では、主である私の指示に従わなければ、命はない。…さぁ、私からの心ばかりのプレゼントだ。受け取りたまえ…。」
 両端の壁がガゴンッと大きな音を立てくるりと回り、壁の裏側が表になった。その壁には、人数分のメタリックなヘルメットと、レーザー銃みたいな鉄砲と、レーザーソードみたいのがぶら下がっている。訳が分からないまま僕達はそれを手に取り装着した。家族連れの中の小さい子は、『お化け屋敷』のような雰囲気に、ギャーギャー泣き喚いている。
「それでは、先へとご案内しよう…。フハハハハハハ〜。」
 しゃがれ声が笑いおわると、奥のほうにある大きな古めかしい木の扉が、青くライトアップされた。『ここに集まれ』と言う意味らしく、僕達は扉の前に立つ。泣いている子供は、お父さんが抱えて連れてきた。
 ヘルメットを被り、ヘンテコなレーザー銃を持った僕達の顔はみんな、眉間にシワが寄っている。古木の扉をずっと見ているとライトがパッと消え、次に「プシュゥゥゥゥゥゥゥゥ」と、宇宙船のエアーシャッターのように左右にすばやくスライドした。…拍子抜け…「ギギギ」じゃなかった。
前に戻る 次に進む