FILE.10 何でもない事で盛り上がる奴等
 俺が、石橋圭子さんの前に出ると何もできなくなる事を良い事に、剣マシンは、またとんでもない提案をした。アイツの考えるゲームは変な物が多い。今回の提案(ゲーム)は、『飛鳥は石橋のTEL番を聞き出す事が出来るか!ゲーム』。
 題名を聞いただけでも、その変さは、びんびん伝わってくる。そして、その内容って言うのが、ざくろ、剣、雅、太郎の4人が、俺が石橋圭子さんの電話番号を一週間以内に聞き出す事が『出来る』『出来ない』のどっちかに各々手持ちの1000円を賭けて、結果を見守るってゲーム。賭けのネタにされた俺が完全に乗り気じゃないのに、4人は異常なまでに盛り上がっていて、なんか「どーにでもなってくれ。」って感じ…。



 次の日から、俺の行動するすぐ横に太郎がいつでもへばりつくようになった。学校の休み時間とか、登下校時…。寮の俺の部屋の前にまでついて来て、ヘタすりゃドアの前で太郎は一夜を明かしたりもする。いつでも監視されている状態で、息苦しいと思った。
 ちなみに、太郎と剣は、俺が石橋さんから電話番号を『聞き出す事が出来ない』派で、ざくろと雅は『聞き出す事が出来る』派。…つまり太郎・剣組は万が一にも、俺が偶然にも石橋さんに逢う機会があって、そして電話番号を聞いたりしないように、ずっと監視しているようなんだ。
 …大丈夫だって。自分で言うのもなんだけど、いくら石橋さんと逢う状況になっても話す事も出来なければ、電話番号なんて絶対聞き出せないよ。
 しかし俺の考えは、根本的に間違っていた。それに気付いたのは、その次の日…。
 その日の3限目の終わり、俺は学校の売店にパンを買いに行こうと校舎の裏を歩いていた。昨日に引き続きぴったりと俺の横には太郎の姿もある。
「太郎…。俺の性格分かっとるやろ?俺がこそこそ石橋さんに逢いに行く事って無かて。」
 俺が太郎にそう言うと、太郎は、
「無いでしょうね。」
 と、言って微笑む。「だったら、なんで監視されなきゃいけないんだよぉぉ?」と、思って口に出そうとした瞬間、太郎の目的がソレ(監視)では無いことが、はっきり分かった。
 俺達の前方、木陰の下に太郎が目的とするアレが立っていた。アレとは、『金色の長い髪をポニーテールでまとめている男』。
「太郎…。飛鳥を渡してもらおうか。」
 ざくろは、ニヤッと微笑みながら俺達の前に歩いてきた。近づくざくろに対して、
「渡せるわけ無いでしょう。このまま一週間、飛鳥を石橋さんに逢わせる事はさせません。」
 こっちもまた、ニャッとしながらそう答える。つまり、太郎・剣組は、『俺が石橋さんに逢う』って言う事を監視しているのでは無く、『俺を石橋さんに逢わせようとするざくろ・雅組の作戦』を阻止しようとしていたようなんだ。
「DAMN YOU。太郎〜。」
 そういうと、ざくろの右足はブォンと風を切りそのまま太郎の鳩尾をえぐり上げ、太郎は1mくらい上空に跳ね上がった。しかもざくろの蹴りは、効き足・右の本意気の蹴り。現役プロレスラーの内臓を完全に破裂させ、肋骨の粉化もプラスされる程の破壊力。その蹴りをまともに食らった太郎は案の定、隣にいる俺の耳にまで聞こえる腹部周辺のゴキッという音と共に、口から「ゲボッ」と真っ赤な血を吐きながら宙を舞った。
前に戻る 次に進む