しばらくして、タクシーの後ろから大地を震わすような重低音が聞こえてきた。
 20年ほど前、『マッスルバイク』と呼ばれていたアメリカのバイク、ビューエル・S1Wホワイトライトニングの最終モデル『Buell−LIGHTNING.X3』。ビューエル社は、このバイクを最後に一線から遠退き、今ではこのバイクを『LastBuell』と呼び、コレクターの間では、何憶という価値が付いている。バイク好きの大富豪が、このバイクを手に入れたとすれば、温度湿度を細かく管理するデジタルシステムを塔載した特別保管室に半永久的に保存される事だろう。そんなバイクを平気で乗り回す奴は、アイツを置いて他にいない。
 重低音は、タクシーの真横に移動し、そしてタクシーのガラスがコンコンッと音を立てた。某は、音のした窓の外に目をやると、そこには、愛車『LIGHTNING.X3』に跨ったざくろと、後ろの席に座る飛鳥の姿があった。某はタクシーの窓を開ける。
「雅!! 剣、到着したやろか?」
 飛鳥の某に対する第一声は、先に飛び出した剣が到着しているかどうかの確認だった。
「いや・・・。見てはおらぬが。」
「やっぱりな。アイツ場所も聞かずに飛び出したから、今頃どっかで迷子になってっぞ。」
 あきれた顔で、愛車を操作するざくろが呟く。
「・・・で、どれね?広末さんの乗っとらす車は・・・。」
 120kで、高速道路を走るタクシーに横付けしたバイクから飛鳥が質問し、
「この車の前を走る白のクラウンだ。」



 と答えた。ざくろと飛鳥は車を確認し、そして、
「俺達があの車を操縦不能にする。そして雅は、それを止めろ。」
 ざくろの計画に某もうなずき、次の瞬間バイクはタクシーを追い抜きクラウンに近付いて行った。某も行動に移るため、タクシーを操作する運転手に、
「某の事は気にせず、貴殿はそのまま走り続けろ。」
 と言い、窓からタクシーの屋根へと移動を始める。
「お・・・おきゃくさん。」
前に戻る 次に進む