扉を抜けたその中は、すり鉢状の広いドームになっていて、ずらりとメタリックな椅子が並び、中央には凄く大きなモニター。左右の壁は、一面『銀色』で、意味なくピコピコと電気が点滅して、宇宙船の中のような光景が広がっていた。今までとの状況の急な変化に、僕達の眉間にシワが1本増えると、
「何をしている早く席に着きシートベルトを締めろ!さもないと振り落とされるぞ!」
 と、今度は元気な男の人の声がドームの中に響いた。僕達は「はぁぁ?」って顔になりながらも、言われた通り、その辺の椅子に座り、備え付けのシートベルトを装着する。500席くらいある椅子に、ぽつんぽつんと14人。僕とぼたんさんは、隣同士に座った。
 程なくドームのライトが暗くなる。
「やっと、席に着いたみたいだなぁ〜。よし。君達の右側にある3Dレンズを付けろ。もうそろそろ出発だ!」
 元気なお兄さんに言われた通り、右側に置いてある『3Dレンズ』を手に取る。多分コレをはめたら、前方の大きなモニターで、浮き出たような映像が始まるに違いない。…でもこの『3Dレンズ』。右眼が青で左眼が赤って言うのは、時代遅れの気がする。
 僕は、『3Dレンズ』をはめて次に始まる『何か』を待った。何も起こらない間は目がくらくらする。
「君達は、これから母星イーモアを離れ、遥か彼方に位置する星『地球』を目指す。冒険に危険は付き物。健闘を祈る。」
 さっきまでの元気なお兄さんに代わり、紳士風な声がスピーカーから聞こえてきた。設定では、僕達は『イーモア星人』にされてるらしい。
「それでは、秒読みを開始する。ターニャ、カウントを。」
 「テン…ナイン…エイト…。」と、外人の女の人のカウントが始まった。この声の人が『ターニャ』らしい。カウントが始まると僕達の座っている椅子が、ガタガタと揺れ始める。『僕達、イーモア星人は、『地球』に向かって出発するのだ!!』
「スリー…ツー…ワン…。」
 いよいよ出発か!と、思った時に椅子の揺れが止まり、
「よし。準備完了だ!」
 と、紳士風の男の人の声が聞こえた。何がなんだか訳が分からなくなってきたけど、とにかく、10秒の間に何かを準備して、それが完了したみたい…。椅子のガタガタは、いったい何?って感じ。モニターには今だ何も映ってないし、青赤めがねでくらくら来てるし…。隣に座っているぼたんさんも、何がなんだか分からなくなってるらしく、ジッと何
も映っていないモニターを凝視している。
 それから数分、何も起こらない…。
 広い宇宙船のようなドームの大きなスピーカーから、いきなり『ドォォン』と大きな衝突音が聞こえ、僕達の座っている椅子がグラグラと揺れた。
「艦長!スクリューがやられました!海上に浮上できません!!」
 若い男の人の声が、スピーカーから聞こえてきた。
「くそぅぅ。ゲルマ軍の攻撃か…。鵠沼!みんなを司令室に集めろ!長い戦いになりそうだ。」
 今度は、気合の入った偉い男の人の声。多分この人が『艦長』で、さっきの人が『鵠沼』さんなのだろう。それにしても、僕達は何に乗っていて、何で海の中で、ゲルマ軍っていったい何?
 僕達のツッコミを入れる暇無く、話は進んだ。
「我々は、これよりワープに入る。艦員は皆、ファンデーションのコンパクトを開け!コンパクトを持っていないものは、振り落とされぬようしっかり捕まっていろ!」
 『コンパクト』??僕は隣に座っているぼたんさんを見た。すると、何かぶつぶつ言いながら、ポケットからファンデーションのコンパクトを手に取り、首を傾げながら、パチッとコンパクトを開いた。そして、ついでに化粧も直してる…。僕はコンパクトなんて持ってないから、椅子の肘置きをしっかり掴む。これから何が起こるの?
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