FILE.09 雨の日の出来事
 朝のテレビの天気予報士が予想もしていなかった雨が、昼から降り始めた。これと言ってすることも無かった俺は、寮の自分の部屋でブォケェェっとしている。俺の生活は全て仕送りでまかなわれていて、この時期は、暇はあるけど、金が無い。
 以前、紹介された事もあったと思うけど、俺の部屋は『駄菓子屋』状態になっている。でも、これは俺の私物ではなく、言わば問屋の『依託販売所』で、俺が、この寮の部屋に品物を置かせてあげている。って感じなんだ。(…俺が頼み込んで部屋に置かせてもらっている。って言うのが正しいかな?)小さい頃からこんな環境で生活するのが夢で、『高校の寮の部屋に駄菓子屋』っていうのはかなり極端だけど、一応夢がかなっている。しかし、目の前に置いてある駄菓子群は、『商品』。このお金が無い時期、指をくわえて見ているだけってのはかなりツライ。
 健全な青少年が部屋でゴロゴロしている。何もする事無いから仕方が無い。一階の食堂にあるテレビでも見に行こうかなーと、立ち上がった時、「今日って、『週刊少年チャンピオン』の発売日やん。」と気付き、なんとなく目的が見つかった。今日は俺の愛読書『週刊少年チャンピオン』の発売日。先週号の次週予告に載っていた『柔道バカ番長』という新連載漫画が載るって言うんで来週号は結構期待していた。
 そんなに強い雨でもないし、俺は書店へ向かう事にした。
 昼に降り出した雨は、朝から出かけていった人達の足を止めている。書店に行く途中の、いつもそんなに繁盛していない喫茶店なんかも、雨宿りついでに人が入っていたりした。
 寮から歩いて10分くらいの場所にある『矢口書店』。狭い店内ながらも、いろいろな本が所狭しと置いてあって、結構ご贔屓にしている本屋。
 矢口書店に着き店内を覗いて見ると、やっぱり意外と人が入っている。俺は店先に並んだ日指しの下の棚に置いてある本が目当てなので、わざわざごった返す店内に入る必要も無く、傘を脇に立てかけて最新号の『週刊少年チャンピオン』を手に取った。金は無いけど、立ち読みするのはタダだよな。
 今週号の『週刊少年チャンピオン』は、新連載の『柔道バカ番長』が表紙をデンッと飾っていた。女性読者層を狙ったような、中世的な眼がキラキラした主人公・轟 流星。最近は主流になった絵のタッチなので、そんなに違和感は無い。ページをめくると巻頭カラーで数頁、本編50ページで『柔道バカ番長』は掲載されていた。話はと言うと、アメリカの西部で牛飼いとして生活をする轟流星は、ひょんな事から惑星リリアに菅沼信也と言う人物を探すために宇宙へ飛び出し、旅の途中に現れる宇宙人なんかを得意のガンアクションで倒していく。というスペースアドベンチャー。登場する人物は(宇宙人も)みんな目がキラキラしていて、きゃしゃで、女性ファンを完璧に意識した作品。ちょっとその辺が鼻につくかな。
…ま、次回からの展開に期待という事で、俺は次に掲載されている『浦安鉄筋家族』を読み始めた。そして、『浦安鉄筋家族』を読んでいると、
「ありがとうございました。」
 と言う店員の声が聞こえ、店の自動ドアがシャァァっと開いた。別に誰が出てきても気にはしていなかったけど、何気なしに出てきた人物を見ると、な…なんと、3組の石橋圭子さん!!。…多分俺はこの時、とんでもなく凄い顔になっていたに違いない。
 すんごい可愛い顔立ちに、ジーンズの吊りスカート(何て言うのか分からない。)、胸には今買ったばかりの紙袋を抱いている。

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