そして、その時はやってきた。俺が石橋さんに気付かれないように、電柱の影に隠れていると、チャームポイントのポニーテールを解き、サングラスに皮ジャンを着たざくろと、ドレッドのかつらを付け、レゲエ風の服を着た雅が、石橋さんの前に現れた。



「お!お姉チャン。今暇?俺達とイイコトしない?」
 ベタベタな台詞で石橋さんに近寄る2人。
「す…すみません。急いでますから。」
 困った顔をして石橋さんは、2人を避けようとするが、すぐに回り込まれ、
「俺達の誘いを断るなんて、お前、ムカツクな〜。」
 と、始まった。いきなりの展開で、身動きできなくなった石橋さんは、うつむき、震えているようだった。
「ムカツクから、襲っちゃおー。 やっちゃいな、ベンジャミン。」
 ざくろはそう言うと、隣にいた雅に合図した。雅は『ベンジャミン』って役柄らしい。
「OK。ピースケ。」
 雅扮する『ベンジャミン』は、ざくろ扮する『ピースケ』にそう答え、石橋さんの真ん前に立つ。そして、シャァァァァっと言う音が聞こえた。電柱に隠れている俺の目は、多分凄く飛び出していたに違いない。石橋さんの真ん前に位置する雅は『鉄刃刀』を抜いたんだ。しかも、愛刀の真剣『岩豪丸』。ギラリと黒光りする真剣『岩豪丸』は、戦国時代から幾度と無く人の血を吸ってきた牙京家に先祖代々伝わる名刀。その『岩豪丸』を石橋さんの目の前で、高々と振り上げた。超危な過ぎる!
 俺はとっさに電柱の影から飛び出し、石橋さんの元に走る。でも、ちょっと距離がありすぎて間に合わない!雅の、長さ150cm幅30cmの鉄の板はブォンと振り下ろされた。
 その瞬間、走り寄る俺の横を大きな黒い物体が翔け抜け、雅に物凄い勢いで激突し、そのまま住宅の壁に雅と黒い大きな塊はぶつかった。住宅の壁周辺の壊れた瓦礫からは白い粉煙が立ち上り、その中から首に手を当てた剣マシンの姿が現れた。
「お前等、危険過ぎ…。」
 ざくろ扮する『ピースケ』を凝視し、剣はそう言った。
「助けに入るのは、オマエじゃねぇ。」
 ざくろは、剣をにらみ、そう答える。
「飛鳥を石橋に逢わせる訳にはいかねぇんだよ。」
 石橋さんは、目の前で起こっている状況が把握できないらしく、呆然と立ち尽くしている。そして俺も中途半端な位置で、立ち尽くしていた。
前に戻る 次に進む